SIerで関わったやばい上司の経験談を淡々と語る

以前勤めていたSIerに面白い上司がいた。

「面白い」というのは無論皮肉で、言葉を悪くすれば「どうしようもないクソ上司」と言い換えられる。

彼は異動した先の部署のプロジェクトマネージャーだったのだが、異動初日の打ち合わせでまず言われたのは

「今日からは家に帰れないと思え。仕事はいつだって全力疾走」

だった。

耳を疑った。

「仕事を全力でやる」のと「家に帰らない」が論理的につながらなかったからだ。

打ち合わせでは、異動してきた私に期待する役割だったり、業務の内容には一切触れず、精神論と彼の武勇伝が全てだった。

武勇伝では

「朝6時から会議をしていた」

「毎日タクシー帰りだった」

「10キロ痩せた」

という話ばかりをしていたので、彼にとって「仕事に全力を尽くす」とは「とにかく時間を投入すること」なのだと理解した。

私が嫌いな思考停止型脳筋上司なのだと(以下、「脳筋さん」と呼ぶ)

移動先での仕事は詳しくは書けないが、COBOLで書かれた膨大なスパゲティプログラムをCOBOLで書き換えるようなプロジェクトであった。

いま振り返っても何の意味があるのかわからないが、ものすごい予算と人員が割かれていた。

直属の上司となる脳筋さんからは「プロジェクト計画書」というPowerPoint資料を渡されたきり、具体的な指示はなかった。

「無いわけないだろ」と思われるかもしれないが、数年経ったいま冷静に振り返っても、何の指示もなかったのだ。

「体制図」と書かれた紙の一部に私の名前があったのだが、その「体制」の中で何をやるのかの説明は一切なかった。

その他にも、以下のような説明は一切行われなかった。

  • 担当するシステムを理解するための資料の在り処
  • 担当するシステム(アプリケーション)の使い方
  • 担当するシステムのサーバーのIPアドレス、ユーザー名、パスワード等
  • 開発を開始するにあたっての初期資料
  • 所属するチームでは様々な申請をそれぞれの担当者に行う必要があったのだが、誰に何を申請するかの説明

脳筋さんは「見て学べ」「自分で調べろ」と言いたかったのかもしれない。

しかしながら、ファイルサーバーをゼロから漁り、何がどこにあるのかもわからない中、膨大な(でもまとまっていない)Excelを全部開いて情報を集めるのは骨が折れた。

脳筋さんは体育会系の人なので、「ファイルサーバにある資料は全部読め!」と言いたいのだろうが、体系立てて整理されていない資料を探す作業は辛かった。

システムのソースコードは会社独自の謎のバージョン管理システムで管理されていた。

GitHubではない。Subversionですらない。

会社独自の謎の管理システムで、その管理システムのIPアドレスすら誰も教えてくれず、ソースコードをダウンロードする方法も全くわからなかった。

どこを調べても「独自のシステムからソースコードをダウンロードする方法」は書いていなかった。

どうやらチームの中で引き継がれていくものらしい。

誰かから聞かなければならなかったが、プロパーの社員はソースコードに興味がなく、そもそも仕組みもわかっていなかったため、パートナー企業の方に聞くしかなかった。

wikiがあればいいのだが、wikiのようなものを書く場所がなかった。作ることもできなかった。

とにかく情報が分散されていて、それでいて紙の資料で残っているわけでもなく、

「知っている人を探して聞いて回る作業」

にものすごく時間が取られた。

信じられないかもしれないが、「この情報を知りたい」となったときにまずやらなければならないのは、「誰が情報を持っているかをチャットで聞いて回ること」なのだ。

SIerの古いプロジェクトだとあるあるなのかもしれない。

すべてが恐ろしく非効率だった。

20時から始まるテレビ会議

脳筋さんはパワフルな人だった。

20時頃に突然チャットが来て、打ち合わせを始めることが週に3回はあった。

20時から21時まで、30分の進捗報告と30分の説教。

怒られるというよりも、脳筋さんの仕事論を聞いて「なるほど」「ありがとうございます」「頑張ります」という返しをするプレイが主であった。

私はSIer社員の語る仕事論が嫌いだった。

「自分がどれだけ残業したか」の話が多く、精神論ばかりだったからだ。

脳筋さんは言った。

「俺達が最後まで見守っているから協力会社が頑張れるんだ」

これは、「協力会社のメンバーの人が残っている限りプロパー社員は残業し続けろ」という意味だった。

自分の作業状況に関係なく、毎日23時まで残り続けることが確定した。

私は技術の話がしたかった。

「最近はこんな技術が出てきて、世の中はこうなっている。

だから、その技術を使ってこんなことがしたい、こうやって面白いものを作りたい」

こういう話がしたかった。

未来を語り、技術を駆使して世の中に何かを出していく。

そんな仕事がしたかった。

SIerのプロパー社員と、そんな話ができたことは一度もなかった。

話題はいつも決まっていた。

  • 残業の話
  • 身内の噂話
  • しょぼい武勇伝
  • SIer社内でしか通用しない仕事論

一度だけ、とても良い人が揃っているチームに所属したことがある。

そのときはしょぼい武勇伝を語る人はいなかったからよかったが、SIerに染まりきった人は武勇伝を語る傾向がある。

自分たちの仕事に一点の疑問もなく、誇らしげに仕事をしている連中だ。

私は冷めた目で見ていたが、中で洗脳されてしまうと、自分を客観的に見られなくなってしまうのだろう。

それはそれで幸せなのだ。

延々と続くレビュー地獄

SIerの大規模プロジェクトは「資料作り」と「レビュー」が9割を占める。

とにかく資料を作りまくり、その資料をレビューしてもらうことが大事なのだ。

資料のレビューが「品質」につながると信じている。

システムの品質はテストで担保すると私は思うのだが、SIerでは当然、テストコードは書かない。

「テスト結果報告書」を読んで、「バグの件数」などをふむふむと見て、

「バグが出しきれてないんじゃないか」

などと指摘するのがSIerの品質の高め方だ。

「報告書」の中には「どんなバグが出たか」が書かれていて、そのバグの種類をふむふむと「有識者」が見て、

「出るべきバグが出ていますねえ」

などと言うことで、レビューが進んでいく。

有識者たる偉い人が「いいんじゃないですか」といえばレビューに通り、「品質が高まった」とされる。

私は思った。

それ…、意味あるのか…?

一事が万事、そんな感じでSIerの大規模プロジェクトは進んでいく。

すべてが形式主義で、すべてが「ごっこ」に過ぎない。

形式通りのお作法をこなすことが最も重要なのだ。

お役所仕事、官僚主義ここに極まれり。

新卒の採用担当が「私達は大きな仕事をしています!」と誇る、我らのSIer大規模プロジェクトの実態はお役所仕事なのである。

肥大化した人員。

形式ばかりで実態がない資料作り。

進まないシステム改修。

古くて学びもない、他で通用しない独自開発。

様々なしがらみでがんじがらめにされて、若くて優秀な社員たちがどんどん疲弊し、その人材価値を失っていく。

それが日本の大手SIerの実態なのだ。