SIerに将来性があるのか不安な人もいるかもしれません。IT業界に15年以上身を置き、そのうち10年をSIerで過ごした筆者が、ずばりSIerの将来について予想します。
結論から言うと、SIerは「凋落」はしません。一方で、将来性があるかというと、伸びる余地は限定的です。
理由は記事の中で順を追って説明します。
SIerが凋落しない理由
SIerは様々なところで「やばい」「古い」「きつい」「未来がない」と言われますが、潰れません。
理由はシンプルで、お客さんを握っているからです。
お客さんのシステム開発を担っているのがSIerです。
お客さんのビジネスにはITが必要です。ですがSIerの主たる顧客である大企業には「自社でITシステムを構築する能力」はないのです。
たしかにお客さんは自社の業務に精通しています。「業務知識」とか「ドメイン知識」というやつです。
ですが、「ドメイン知識」を「システム」には落とし込めません。
だからSIerの助けを借りるのです。
では米国のように「内製化」しないのかというと、できません。
理由は以下の通りです。
- 部署異動した社員がITを担当している
- 企業はITシステムを構築し終わった後に人材を解雇できない
- 上層部がITを知らないため、評価できない
- IT人材は不足していて、まともなIT人材は技術的に面白くない大企業には近づかない
順番に見ていきましょう。
部署異動した社員がITを担当している
大企業にはどこでもITの部署はあります。どんな人がITの部署で働いているのかというと、人事異動で配属された人です。それも「ハズレの部署扱い」されます。
2〜3年おきに定期的に人事異動で部署を移り渡り、たまたま配属されるような人がITを担当するのです。当然、システムのことなんて何もわかりません。
何もわからないので、SIerに委託するのです。
SIerはメーカーなどの大企業に入り込んで、「業務知識」を吸収します。顧客と同じくらいに顧客の業務を理解し、顧客の業務に必要なシステムを作ります。
顧客の業務は非常に複雑であるため、SIerが作るシステムも複雑になります。
複雑になったシステムを納品されても中身は全然わかりません。「設計書」と呼ばれるExcelの束を渡されたところで、中身を理解できるわけがないのです。
Excelは儀式です。「ちゃんとやってますよ」「ほう、ならばよし!」と承認するための茶番です。
そういうわけで、顧客企業のIT担当者は自社のシステムがまるっきりわかりません。
なので、SIerに依存するしかないわけです。何もわからないから、見積もられても否定できません。自分で作ったことがないのに、「この見積もりおかしいだろ」とは言えないのです。
なので、毎年毎年莫大なお金をSIerに落とします。この傾向はしばらく続きます。
企業はITシステムを構築し終わった後に人材を解雇できない
日本は解雇規制が非常に強いため、「プロジェクトごとに人を集めて、プロジェクトが終わったら解雇する」というような柔軟な人材の運用はできません。
一度雇用してしまったら、会社が傾かない限りはずっと雇用し続けなければいけません。
一方で、ITシステムの開発に必要な人材は一定ではありません。
プロジェクト初期には大量の人員が必要ですが、保守・エンハンスフェーズに入ればそれほど人間はいらなくなります。余った人間は企業にとっては大きなコストです。人間に一番お金がかかるのです。
企業にとっては余剰人員を抱えるのは大きなリスクなので、外部にまるっと委託してしまったほうが結果として事業のリスクがコントロールしやすくなります。
そういう意味で、IT部門を持たない、持てない、作れないユーザー企業にとって、IT部門を肩代わりしてくれるSIerは必要なのです。
上層部がITを知らないため、評価できない
SIerの主要顧客である日系大企業(JTC)の役員はITがわかりません。IT音痴ばかりです。
文系卒・理系卒は関係ありません。いずれにしてもIT音痴なのです。そもそも偉くなってからITの勉強してもできることはたかが知れています。会社で偉くなる人は会社の業務に邁進した人であり、ITを学んだ人ではありません。
役員のみならず、課長・部長・本部長もITを知りません。これがどういうことかというと、
「日系大企業のIT部門に仮に採用されたとしたら、ITを知らない人間が上司になる」
ということです。
自分が何をやっているかをいちいち小学生に説明するかのように説明しなければ理解されません。
わからない・難しいことが評価されるとは限らないし、ウェブ系企業で当たり前な「周りからの正のフィードバック」などもありません。技術の研鑽が全くできない環境は技術者にとっては致命的です。
そんな環境にはまともな開発者は近づきません。というのも、選択肢が日系大企業しかないのであれば、渋々でも選ぶ価値はありましたが、IT技術者は引く手あまたなので、給料が安くて上司が馬鹿な日系大企業にわざわざ近づきません。
だからユーザー企業が「内製化するぞ」といっても無理な話で、結局はSIerに投げるしかないのです。
IT人材は不足していて、まともなIT人材は技術的に面白くない大企業には近づかない
IT系は人材不足です。特に技術的に成熟した中堅プログラマ、中堅SEは不足しています。
今ではどこもかしこも「DX」で、どの企業もIT人材(DX人材とも呼ばれる)を欲しがっています。
IT系だけではなく、コンサル会社などもIT人材を採用しまくっています。
ウェブならウェブで、ユニコーン・GAFAなど優秀な人材を囲い込んでいます。
とにかく人材が足りていない、売り手市場なのです。
そんな売り手市場の中で、わざわざ日系大企業で「傍流」とされているIT部門に就職したがる人はいません。技術者が花形となる会社で、自分の専門性を伸ばし、伸ばした専門性を元に転職して年収を上げていくのがIT技術者のキャリアです。
日系大企業のIT部門に入っても、技術者としてのキャリアは全く開かれません。
周りはIT何も知らない。会社のシステムは古くて使えないものばかり。GitHubも知らない。ウェブで見るような技術は何も使われていない。評価もされない。
そんな日系大企業にIT人材は入りません。
口で言うのは簡単ですが、「内製化」なんてできないのです。人がいないから。
内製化できなくても、ITシステムは絶対に必要です。むしろデジタル化の津波によって、システム投資は大きくなっています。そのお金はどこに向かうかというと、結局SIerに向かうのです。
だから、SIerは潰れません。ユーザーは内製化できないからです。
SIerに将来性はあるのか?
SIerに将来性はあるの?に関しては、
「会社は潰れないけど伸びは限定的。キャリアの選択肢は狭い」
というのが実情です。具体的に見ていきましょう。
SIerは常に顧客に必要とされるが、SaaSの圧力により伸びは減っていく
SIerの需要はなくなりません。顧客がIT音痴なので、情弱から金をぼったくるSIerは常に必要とされるのです。
AWSが当たり前になって、オンプレサーバーが使われなくなっても、SIerは「AWSコンサル」としてお金を稼ぎます。顧客が勉強してITに詳しくならない限り、SIerはずっと必要とされます。
顧客はITを内製化できないので、SIerは消えません。
とはいえ、便利なSaaSが増えているので、「何から何までSIerに作ってもらう企業」は減っています。
SmartHR、HRBrain、Google Workplaceなど、とても便利ですね。
かつてはSIerが作っていた部分の多くはSaaSで賄われています。
とはいえ、ビジネスの核となる利益を生むシステム開発は SaaS では提供されないため、どうしても自社特有の何かを作る必要はあります。そこにSIerが使われるので、伸びはせずとも需要は減らないのです。
いや、むしろデジタル化の流れの中でSIer需要は大きくなるかもしれません。
そういう意味で、SI事業は今後横ばいか、あるいは多少伸びる可能性はあります。
オフショア開発で稼ぐビジネスモデルに限界が来る
SIerでなぜ利益が出るかというと、中国やベトナムの安い労働力を大量に使って、システムを構築し、その人件費を顧客からぼったくっているからです。
全てをSIerの自社社員で開発していたら、利益は絶対に出ません。
システム構築は労働集約型の事業モデルで大量の中国人を動員しますが、顧客には「自社の工数」として見積もり提出し、高い費用を請求します。
使っている中国人の人件費は顧客に請求した「自社のコスト」よりも安いので、サヤ取りで利益が出ます。
しかしながら、最近では中国も成長していて、オフショア開発のコストは年々上がってきています。
そして優秀な中国人はSIerのような劣悪でキャリアとしてのアップサイドが見えない職場を選ばないので、まともな人材の調達も難しくなっています。
「サヤ取り」で稼いできたビジネスモデルは、新興国の人件費増大によって終わりを迎えてしまうのです。
個人のキャリアとしてSIerは有望か?
組織としてのSIerは倒産する確率も低く、これからの内製化できない顧客の需要があるため、安泰だとはいえます。
では、個人のキャリアを築く上でSIerは有望でしょうか?
専門性は身につかない
SIerで働いても「市場で評価される専門性が身につかない」可能性は非常に高いです。将来、専門職として転職しようとすると、けっこう苦労します。
たとえばプログラマだったり、デザイナーであったり、何らかの専門職として独立したい人にはSIerは全く向きません。
だからといって転職先が全く無いかというと、そうでもありません。
大手SIerでは資料を延々と書き、誰かに説明し、承認をもらい、根回しをする…という泥臭い仕事ばかりをしています。そういう仕事はコンサルティング会社の業務と親和性が高いようで、「DX案件」を取りに行くコンサル会社の需要は近年非常に大きくなっています。
またAWSやGoogle Cloudに転職する人も複数人いて、外資IT(ただし、プログラマではない)への転職の間口も開かれています。
SIerで幅広くいろんな人と調整したり、仕事を進めた経験が評価される例です。
ただ、そういう転職に成功するのはいわゆる「基盤系の部署」にいた人が多く、文系卒アプリケーションエンジニアの場合はキャリアの選択肢は極めて狭くなります。
部署ガチャ、配属ガチャがひどすぎる
SIerの金融系・証券系・保険系の部署に配属されると、ものすごく古い COBOLのシステムを延々と保守させられます。
深夜に障害コールがかかってきて、休みの旅行中でも会社PCを持ち歩かなければいけません。
そうやって人柱になって必死にシステムを守りますが、元々は他人が作ったシステムなので、細かいところはわかりません。
一度部署に配属されると10年近く同じ部署で働くことになる人もザラにいて、職務経歴書には「10年間、XX社向けの金融システムのエンハンスに従事していました」しか書けない人もいます。
こうなったらキャリア的にはかなり詰んでいます。
専門性なし。異動で価値がゼロになる業務知識。プロジェクトマネジメントだって何か特別なことをやってるわけではない。関わっているシステムが時代遅れすぎて他社で経験を全く活かせない。
こういう状況の中で延々とくすぶってる人がSIerには多すぎます。全体の80〜90%がエンハンスだけしかやってない人です。
プロジェクトマネージャーしかキャリアの選択肢がない
SIerで個人的に一番きついと思うのは、キャリアの選択肢がないことです。逃げ道もないことです。
大手SIerに就職したら、キャリアパスは「プロジェクトマネージャー」一択です。
プロジェクトマネージャー(PM)になって、大きな工数のプロジェクトを見るのが「偉い」「映えあるキャリアパス」とされています。PM以外の選択肢はほぼありません。
「うちの会社は社員に幅広い選択肢を用意しています」
などと人事は言いますが、ないです。会社の99%がPM志向で、それが正しいと洗脳されるからです。
技術者になりたい、という人は絶対に評価されないし、「技術者になりたい」というモチベーションを理解できる上司もいないでしょう。
だから、専門職になりたい。技術が好き。コードを書きたい、という人は一日でも早く転職活動を始めないといけません。
後述する理由で、SIerは長くいればいるほど転職しづらくなるからです。
会社が嫌になっても辞められない
SIerが一番しんどいのは、会社を辞められないことです。
何もないときはサボっていてもそれなりの給料が入るくらい安定していますが、部署異動などでゴミ上司にあたってしまった時が地獄です。
- 専門性がないため、すぐには転職が決まらない
- SIerの給料はそれなりに高いため、転職すると生活水準を下げなければならない(だから転職に踏み切れない)
- ゴミ上司のプロジェクトは99%炎上しているため、転職活動の時間が取れない
- 延々と残業して、無限に会議をして、何も身につかない
- 逃げられないプロジェクトの中で心身がすり減っていき、潰れる
SIerで働いている、もしくは働こうとしているあなた。
今は大丈夫かもしれませんが、SIerに15年いると、どこにも転職できなくなります。専門性がない35歳以上の人間に転職市場は厳しいからです。
そこから先に、クソみたいな上司に出会う可能性はないと言い切れますか?
35歳になって、逃げ道がなくない中で、糞上司と一緒に働き続けますか?
SIerのキャリアは何の専門性も身につかないため、個人のキャリアプランは完全に会社にロックインされます。まさにベンダーロックインです。
会社から抜けられない。
SIerで働くなら、定年までSIerで働き続けること。SIerにしがみつきつづけることが求められます。
今の待遇が維持されるかはわかりませんが、大手SIerを完走したらそれなりの生涯年収になるでしょう。
それでいいかどうか、胸に手を当ててよく考えてみてください。
お金があるかないかで人生の楽しさは全く変わってきます。
お金があっても幸せになれるとは限りませんが、お金がない人生は不幸です。
お金がなかった私が、転職して年収1000万を超えるまでにお世話になったブログを紹介します。
エンジニア転職のリアル
今の時代は、お金を稼げるかどうかは能力の有無よりも触れた情報の質によるものが大きいです。
ぜひ皆さんも良質な情報に触れて、お金持ちになって人生を充実させてください。